EUREKA ユリイカ

 『EUREKA ユリイカ』を家で観た。
 青山真治監督作品。
 DVDが英語字幕が表示される設定になっていて邪魔だから変更を行ったのだが、表示されつづけた。だが結果として、北九州の方言が英語に表現され、その音の似通りと違和感を楽しめた。
 非常に細かい描写の多い映画だと思った。それゆえなのか作品自体3時間半ある。今回この作品を観ようと思ったのは以前観た『サッド・ヴァケイション』の前作であるということと、黒沢清の映し出す東京と青山真治の映し出す、福岡、北九州についての自分の見解が正しいのかどうか、確かめようと思ったからだ。
 物語はバスジャック事件に巻き込まれたバス運転手と幼い兄弟、その家族と事件関係者を描きながら進む。バス運転手は事件後に失踪し、二年後に戻ってくる。兄妹はバスジャック事件によって家族関係が壊れ、母親は家を出て父親も亡くなる。その後も学校にも行かず家にこもり続けている。バス運転手の男は友人茂雄が勤める建設会社で働き始める。そして兄妹の現状を友人から知らされる。一方で地元で起きた殺人事件によってバス運転手に嫌疑がかかる。バス運転手は兄夫婦の家を出て、幼い兄妹の家を訪ね、共に暮らし始める。そこに兄妹の親戚である大学生がやってくる。
 バス運転手沢井を役所広司、兄妹である梢と直樹を宮崎あおいと実の兄でもある宮崎将が、親戚の大学生秋彦は斉藤陽一郎、バス運転手の友人を光石研が演じている。『サッド・ヴァケイション』で友人関係にあった秋彦と茂雄との関係はここから始まるようだった。ただし故郷が同じようだったのでこの作品の前作にあたる『Helpless』で間接的に関係があるのかもしれないが*1
 しかしこの作品でてくる女性が妙に艶かしいのはなぜだろう。この映画はセピア色のモノトーン映像でほとんど部分が撮られているのだが、その影響だろうか。しかも現在に比べれば非常に幼い表情を見せてくれる宮崎あおいでさえ女性性を感じさせる。『サッド・ヴァケション』では女性の精神的な力強さに恐怖さえ覚えたのだが、この作品ではその精神的な力強さに至る過程が繊細に描かれており、その繊細さに艶かしさを感じたのかもしれない。そしてそれを体現するのが宮崎あおい演じる梢なのだろう。例えば彼女は、失踪後初めて妻に会い別れてきた沢井を慰めてみせる。『サッド・ヴァケイション』での彼女の凛々しさは、この作品において獲得したものだったのだ。もちろんその過程を描いているから、彼女は、というより兄妹には沢井の存在が必要になるのだが。
 沢井はバスジャック事件の際関わりを持った刑事からお前の目はバスジャック事件の犯人の目と一緒だ、といわれる。すると映像は沢井の光る目を暗い拘留所から映し出す。バスジャック犯の足癖をなぜか沢井が行ったりする。事件の影響で沢井は犯人に似通ったのか、事件以前から沢井は犯人と一緒だったのか。おそらく以前から犯人と似ていたのだだろうと私は考える。しかし沢井ははっきりしない性格なのだが、なぜか女性を惹きつける魅力を持っているらしい。
 劇中兄妹は終止言葉を交わさない。しかし兄妹は精神的につながっている。お互い考えていることがわかっているようなのだ。そして妹は兄の心中を理解してしまうばかりに時に精神を不安定にさせる。その兄の心中はバスジャック事件後、世界と自分とのズレとして説明できる。それは沢井も、秋彦もその告白よれば前作『Helpless』での体験によって、感じている。そしてそのズレは、なぜ人を殺してはいけないのかという問いに収斂される。沢井や秋彦はその問いに、単純に「殺さなかった」という事実によって結果的に答え、精神的に支えられている。この映画の男たちは事実によって支えられている。その証拠に沢井や、直樹は重機やバスを操作し、結果を出力することによって何かを見出している*2。沢井は殺人を行おうとする直樹を捕まえて言葉をかける、殺しちゃいけないとはいっていない、と。そして最後には一番大事なものを殺すことになるのだ、と。更にお前は妹を殺すのか、とも。この映画では地元の事件の犯人が全て直樹の犯行のようにみえなくもない。確か小説では全てが直樹の犯行ではなかったと思ったのだが…。
 物語がまさに終わりを迎えようとする時、梢を声と色を取り戻す。セピア色のモノトーン映像はカラー映像となり上空から北九州を映し出していく。
 わかったのは東京において、人工的に再活性化させなければならない場所と書いたが、正確には誰かが手を加えなければそこに残り続けてしまう場所、ということかもしれない。では北九州はどうなのか。これははっきりいって勘なのだが、残すべきものと残ったものが区別なくそこにあり放っておかれているのではないか*3。ただ黒沢清と青山真治が撮る風景の比較についてはとりあえず保留しておきたい。




ユリイカ(EUREKA) [DVD]

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  • 発売日: 2002/02/22
  • メディア: DVD
ユリイカ―EUREKA

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*1:『Helpless』で光石研が茂雄役で出ているのかわからないのだけど…。

*2:これはこじつけっぽい。しかし何かに取り組むべき理由がなくなってしまった沢井や兄妹には、何かを操ることによって、世界との関わりをもつのかもしれない。ただし妹はどうなのだ、といわれるとどうなんだろう。

*3:一応九州旅行の経験あり。