愛する者の死を願う

カミュの『異邦人』はよく再読をする本の一つである。そのなかで以前から気になっているところがある。それは殺人を犯した主人公ムルソーが弁護士と会話するシーンである。そこで弁護士はムルソーの母親についてたずねる。母が死んだ時どう思ったのか、と。ムルソーはこう答える。

もちろん、私は深くママンを愛していたが、しかしそれは、何ものも意味していない。健康な人は誰でも、多少とも愛する者の死を期待するものだ。窪田啓作訳『異邦人』新潮文庫

この「愛する者の死を期待する」という言葉が、不意に現れてくる。私はこの文章を、反芻する内に、「愛する者の死を願う」と書かれていると思っていた。

どちらにしてもこのムルソーの言葉をどう捉えていいのかわからない。そもそも『異邦人』が不条理小説なのだから理解することはできないのかもしれないが。本当にそうなのかと自分に何度も問いかけてみると、そうかもしれない、とも思える。全くそうでもない気もする。少なくとも死は間違いなく避けられないことなのだが。やはりわからない。

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 発売日: 1963/07/02
  • メディア: 文庫