NO.6

 今日は暑い日だった。インナーに汗が染み出しシャツに滲み気化しようとするがスーツとコートが遮った。紅潮させた歪んだ顔面をレンズに向け差し出すと容赦ないフラッシュが私の毛穴から噴き出す汗を捉えた。はれぼったいまぶたを見て女は納得のいかない様子。それにそうですねと曖昧イエスともノーともいわない店員。止まりかけた時計と泊まりかけた女の部屋。光はカーテンに遮られる。駅から市立図書館に向かう。図書館は休館。急患は外来に選別される。悟性による無意味なカテゴリー。独りごちた言葉は間身体性によりお前に伝播する。深夜三時のテレビ画面。黒人のシスターは愛を説く。ナルコレプシーとぼろをまとったジプシー。死とローをテラスに照らしだす傘を持った死神。醜い顔面に浸透する汗と風。市立図書館の先桜並木と小さな川。歩く老人と大腿部骨折。比較対照のない熱さ。沸騰する川。川の向こうの工場の排煙。工場の向こうの霞んだ山々。歓楽街紫の光。風すえた臭いを運ぶ。立ちはだかるビルディング。改心しようのない三毛猫。革命の果て改ざんされる歴史。開放された植民地。こね合わせたミンチ。溶け出したジャガイモととろみのないカレー。彼氏と笑う彼女。閉じこめられた時間。差し出された顔面。閉じこめられた空間。差し押さえられた家。見回る警官。炎天下乱反射された光。浮かびあがる蜻蛉。歪んだ羽が風にゆれる。たるみきった腹心の緩慢な油断。南部に広がるプラント。左方向に旋回するプロペラ。右に切られるハンドル。半ドアの助手席。たるんだシートベルト。広島の夜。闇に滴る冷気。泊まったホテル。止まった時計。待ちくたびれた女と男。時計台の下。排煙を吐く機関車。半円を描くつむじ風。詰んだ盤上戦局。戦況を伝えるテロップ。選曲された千曲の相容れない愛の歌。分類されない例外のない歌。冬の遠い夏の日のデーゲーム。戦端まで滲んだ髪の油。タグのないブランド下着。去勢され矯正下着をつける男との奇妙な共同生活。共生という名の住み分け。資本主義の届かない南の島。巨大な空のペニスケースと否認の出来ない女たち。堕落した子供たち。白い海に流れる細い赤潮と黒い太陽は何かを待ち望む。待ちくたびれた老人。干からびたミミズにたかるハエ。誰もいないプールサイド。会うと最後再度邂逅。草原を走る電車。夕日を遮るカーテン。眠る壮年。醤油をかけられたカレー。滴る汗。あぜ道に倒れた老木。朴訥とした口調に秘められた犯行。延ばされた空。間身体による感情の三叉路。