西の田に幾人かの男ありけり  西田幾多郎

「実在は前にいったように意識活動である。而して意識活動とは普通の解釈に由ればその時々に現われまた忽ち消え去るもので、同一の活動が永久に連結することはできない。して見ると、小にして我々の一生の経験、大にして今日に至るまでの宇宙の発展、これらの事実は畢竟虚幻夢の如く、支離滅裂なるものであって、その間に何らの統一的基礎がないのであろうか。此の如き疑問に対しては、実在は相互の関係において成立するもので、宇宙は唯一実在の唯一活動であることを述べて置こうと思う。」   西田幾多郎『善の研究』より


 
 「誰かが空は青いといったが、空はそんなに青くない。空が青いのは…それは空の一部分に過ぎない。朝の空を、夕方の空を、夜の空を見てみろ。あれは青くない。違うかい。」
杉田はそういって僕の方をみた。僕は杉田のいうことも一理あると思ったが、空は常々青いと思っていたからこういっておいた。
「そりゃ、確かにそうかも知れないけど、大概空は青いよね。それに空は青いってみんないってるけど、空が毎回青いなんて思っていやしないよ。色んな色をもってる、でもやっぱり青いんだ。そういうふうにいってるだけだよ。大体青いっていうからには違う色を知ってるから区別できるんだよ。違うかい。」
杉田は僕の話を聞いて少し悲しそうな顔をした。そのあとこう続けた。
「それは…俺だって知ってるよ、そんなことは…。でもさ、さっき藤原は空の色が青いというのは、空の他の色を知ってるからだといったけど、それは違うよ。空の色じゃなくて、色の区別が出来てるからだろう。この世が真っ青だったら色の区別は出来やしない。他の色があるから区別できるんだよ。それを空の色が青だけじゃないということにみんなが気がついてる理由になりゃしないよ。」
僕は杉田の話が聞くのがとても面倒になった。理屈っぽくてかまってられやしない。
「おい工藤、工藤、今の話聞いてたか。もう俺はパスだわ、工藤に任せるよ…」
工藤はポケットティッシュを、彼曰く綺麗なオネエサンが配っていたティッシュを小結りにしてむずがりながらいった。
「えっ、俺かぁ、俺はそれよりさっきティッシュ配ってたあんな綺麗なオネエサンが、あんなバイトでその日暮らししているのかもしれないと思うとこの身が引き裂かれる思いだよ…。えっ、空の話ね、はいはい、あっくしゃみ出そう…出るよ、出るよ………ぶあっくしょい畜生! 出た出た、すげーよこの小結り…。あっと空ね。空といえば最近シューする奴、正式名称なんだっけ、あっデオドラントスプレーだ、それのCM見たんだけど、まぁグラビアアイドルたちが楽しそうに浜辺ではしゃいでるんだけど、その空は杉田のいうように思いの他、青くはなかったなぁ。意外にも曇ってたねぇ。」
杉田の顔も思いの他曇りだしたようだった。そして次の瞬間、彼は叫びだしたのだった。
「サラサラの男子がいいな、男子に使って欲しいな、男子にオススメ、男子のマナーだよ、男子に使って欲しいのだ、汗かいたらコレだよぉぉぉぉぉおおじゃねーだろおがぁぁぁ」
「おい杉田、男子に使ってほしいのだっていうセリフは二回あるからな、忘れんなよ。」
僕はそのデオドラントスプレーより、女にモテルという香水もどきの奴がほしいなぁと思った。